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徳島地方裁判所 昭和38年(ワ)401号 判決 1969年1月30日

主文

一、原告に対し

被告森西利亘は別紙目録(一)記載の各不動産につき

被告森西信雄は別紙目録(二)記載の各不動産につき

被告森西泰海は別紙目録(三)記載の各不動産につき

それぞれ昭和二九年四月二三日徳島地方法務局古宮出張所受付による昭和二八年一二月一五日相続を原因とする所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

二、被告森西利亘は別紙目録(一)記載の各不動産につき

被告森西信雄は別紙目録(二)記載の各不動産につき

被告森西泰海は別紙目録(三)記載の各不動産につき

それぞれ譲渡その他一切の処分をしてはならない。

三、訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、他の三を被告らの按分負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

一、原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨のほか、原告に対し被告森西泰海は別紙目録(四)記載の不動産(但し、その共有持分権)につき昭和二九年四月二三日徳島地方法務局古宮出張所受付による昭和二八年一二月一五日相続を原因とする所有権取得登記の抹消登記手続をし、かつ右不動産につき売買、譲渡その他一切の処分をしてはならない旨、並びに訴訟費用は被告らの負担とするとの判決を求めた。

二、被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(当事者双方の主張、答弁等)

一、原告訴訟代理人は請求原因として

「(一) 別紙目録(一)、(二)、(三)、(四)記載の各不動産はかつて訴外亡森西福雄の所有であつた。

そして、右別紙目録(一)記載の各不動産については被告森西利亘の、同(二)記載の各不動産については被告森西信雄の、同(三)記載の各不動産については被告森西泰海の、同(四)記載の不動産については被告森西泰海及び訴外森西昭(共有)の、いずれも昭和二九年四月二三日徳島地方法務局古宮出張所受付による昭和二八年一二月一五日相続を原因とする所有権取得登記がなされ、被告らはそれぞれこれを占有している。

(二) 前記福雄にはその妻森西コヨシとの間に長男森西芳雄、次男森西正治、三男被告森西信雄、四男被告森西泰海があつたが、長男芳雄はその妻森西勝子との間に出生した子被告森西利亘を遺して昭和一九年に戦死し、また、次男正治は昭和一九年八月訴外金島美代子と婚姻し、同女との間に生れた子訴外森西昭及び原告(昭和二一年一二月一三日生)を遺して昭和二一年七月一五日病死し、その後昭和二八年一二月一五日前記福雄が死亡するに至つた。

(三) 原告の父正治は昭和一九年八月原告の母美代子と結婚する際右福雄からその所有にかゝる別紙目録(三)、(四)記載の各不動産(但し、(三)の4を除く。)を他の不動産五筆とともに「仕分け」として贈与を受けた。従つて、右目録(三)、(四)記載の各不動産(但し、(三)の4を除く。)は爾後右正治の所有に帰したものであり、同人の昭和二一年七月一五日の死亡による遺産相続によりその妻たる前記美代子(原告の母)と子である前記昭及び原告が相続分各三分の一の割合でこれを共同相続した。

従つて、別紙目録(三)記載の各不動産(但し、4を除く)についてなされた前記被告泰海名義の所有権取得登記は登記原因のない違法な登記であつて無効であり、また、別紙目録(四)記載の不動産についてなされた被告泰海、訴外昭両名共有名義の所有権取得登記も違法である。

(四) 更に、別紙目録(一)、(二)記載の各不動産及び同目録(三)記載のうち4の不動産は前記福雄の遺産であるところ、同人の昭和二八年一二月一五日死亡による遺産相続によつて、同人の妻コヨシが三分の一、その長男前記芳雄の子である被告利亘が六分の一、次男前記正治の子である訴外昭及び原告が各一二分の一、三男被告信雄が六分の一、四男被告泰海が六分の一の各相続分割合をもつてこれらを共同相続したものである。

従つて、原告は別紙目録(一)記載の各不動産についての被告利亘の、同(二)記載の各不動産についての被告信雄の、同(三)記載中4の不動産についての被告泰海の前記各所有権取得登記を承諾したことはなく、右各登記はいずれも違法無効である。

(五) 仮に、別紙目録(三)、(四)記載の各不動産(但し、(三)の4を除く。)に関し前記(三)項で述べた亡福雄からの「仕分け」による亡正治の所有権取得の主張が理由なしとするも、右各不動産は前項(四)で主張したとおり右福雄の遺産としてその余の各不動産とともに同項記載の原告外五名の相続人により同様共同相続したものであり、前示各所有権取得登記は違法無効である。

(六) よつて、原告は被告らに対し別紙目録(三)、(四)記載(但し、(三)の4を除く。)の各不動産については、第一次的に、福雄からその所有権を取得した正治の死亡による遺産相続を取得原因として、予備的に福雄の死亡による遺産相続を取得原因として、また、別紙目録(一)、(二)記載の各不動産及び同(三)記載中4の不動産については右福雄の死亡による遺産相続を取得原因として、それぞれ原告の共有持分権に基き別紙目録(一)、(二)、(三)、(四)記載の各不動産についての前記被告らの各所有権取得登記(右(四)の不動産については被告泰海の共有持分権取得登記)の抹消登記手続を求め、併せて、被告らがそれぞれその所有名義を有する各不動産につき、その登記が存在することを奇貨に、権限もなく売買、譲渡その他の処分をする虞があるので、これら一切の処分の禁止を求めるものである。」

と述べた。

二、被告ら訴訟代理人は答弁等として次のとおり述べた。

「1 請求原因(一)、(二)の事実は認める。

同(三)のうち、昭和二一年七月一五日に死亡した正治の遺産相続人がその妻美代子と子である昭及び原告の三名であることは認めるが、その余の事実は否認する。原告主張のような福雄から正治に対する「仕分け」による贈与の事実はない。

2 原告は、従前、別紙目録(一)、(二)、(三)記載の各不動産すべてにつき、これが昭和二八年一二月一五日に死亡した福雄の遺産であるとし、右遺産の共同相続による共有持分権に基いて被告らに対し各所有権取得登記の抹消登記手続等を求めていたのに、新たに昭和四〇年三月二二日の第一〇回口頭弁論期日において請求原因(三)記載のように、別紙目録(三)、(四)記載の各不動産(但し、(三)の4を除く。)については、第一次的に、それが生前福雄から贈与を受けた亡正治の遺産であると主張し、その遺産の共同相続による共有持分権に基いて被告泰海に対し右各不動産の所有権取得登記の抹消登記手続等を求め、同時に福雄の遺産相続を原因とする前記主張を予備的なものと改めたが、右変更は請求の基礎に同一性がないから許されない。

3 また、原告は、右のように別紙目録(三)記載の各不動産(但し、4を除く。)について、予めこれが他の不動産と同様昭和二八年一二月一五日に死亡した福雄の遺産であると主張しながら、のちに右目録(三)記載の各不動産(但し、4を除く。)が同人から生前「仕分け」によつて贈与を受けた亡正治の遺産であると主張するのは、自白の撤回にあたるので、異議がある。

4 仮に、右原告主張のような福雄から正治に対する「仕分け」による贈与があつたとしても、右は書面によらない贈与であり、かつその引渡もなく、未だ履行がないものであるから、昭和四二年九月四日の第二一回口頭弁論期日において右贈与の取消をする旨意思表示する。

5 請求原因(四)、(五)のうち、福雄の遺産相続人が原告主張のとおり同人の妻コヨシ外五名であることは認める。また、別紙目録(一)、(二)、(三)、(四)記載の各不動産はいずれも昭和二八年一二月一五日に死亡した福雄の遺産である。

6 原告の請求原因(四)、(五)項における主張は、要するに、亡福雄の共同相続人たる被告らが、その一人である原告を除外し、無断で、相続を原因とする被告ら各単独ないし被告泰海及び訴外昭共有名義の所有権取得登記をしたとして、その相続財産の回復を求めるものであるから、その権利行使はいわゆる相続回復請求である。そして、原告は、その相続権侵害を理由に、昭和二九年に徳島家庭裁判所脇町支部に対し被告らを相手方として家事調停の申立をし、間もなくこれを取下げ、更に昭和三〇年九月二一日徳島家庭裁判所に対し被告らを相手方として同様遺産分割の調停申立をしたが、これも同年一〇月二一日取下げたので、その後時効中断の事由もなく、右相続回復請求権は時効期間五年の満了によつて消滅した。

よつて、原告の請求に応ずることができない。」

三、原告訴訟代理人は更に次のとおり反駁した。

「(1) 原告が、別紙目録(三)記載の各不動産(但し、4を除く。)につき、さきに他の不動産とともに昭和二八年一二月一五日に死亡した福雄の遺産として共同相続したと主張して被告らの各所有権取得登記の抹消等を求めていたのを、予備的なものと改め、右福雄から生前に贈与を受けた亡正治の遺産として原告が外二名と共同相続をしたと主張して被告らの各所有権取得登記の抹消等を求めることとなつたのは、単に福雄の所有物を相続で取得したか、贈与で取得したかの、所有権の取得原因の変更に過ぎず、被告ら主張のように、請求の基礎の同一性に変更を来たすものではない。

(2) また、右のように、右各不動産が昭和二八年一二月一五日に死亡した福雄の遺産であるとする従前の原告主張を改め、同人からその生前亡正治が贈与を受けて正治の遺産となつていた旨主張することは自白の撤回にあたらない。仮に、自白の撤回になるとしても、それは原告訴訟代理人が当事者から事情を聴取する際の過誤に原因するものであり、代理人の錯誤によるものであつて真実に反するから前記のようにその陳述を訂正する。

更に、被告らは、仮定的に、原告主張の「仕分け」による贈与を取消する旨主張するが、亡正治は当時その引渡を受けていたものであり、また、右贈与は正治が美代子と婚姻することを条件としてなされた贈与契約であつて、単純な贈与ではないから、この点でももはや取消すことができない。しかも、被相続人福雄のなした贈与契約をその共同相続人の一部の者のみで取消す権能はない筈である。

(3) 本訴において、原告は、所有権ないし共有持分権に基き、被告らの偽造文書による無効な所有権取得登記の抹消登記手続及び処分禁止の不作為を求めているものであつて、これは被告ら主張のごとき相続回復請求権の行使ではない。

仮に、本訴請求が相続回復請求権の行使にあたるとしても、別紙目録(三)、(四)記載の各不動産(但し、(三)の4を除く。)については、原告(親権者金島美代子)は当時これが「仕分け」によつて正治の所有名義に移転登記されているものと確信していたから、被告らによる相続権の侵害があることを全く知らなかつたものであり、その余の各不動産についても、亡福雄の遺産相続に伴う登記手続に関し、被告信雄が昭和三一年一二月二一日私文書偽造罪により有罪の判決宣告を受けるに至り、これによつて被告らの各所有権取得登記は抹消されたものと思惟していたところ、右抹消登記が実行されず、原告は被告らに対し再三遺産分割を請求していたが、昭和三四年三月頃被告らは原告の求める右抹消登記手続の請求を了承したから、これをもつて相続回復請求権の消滅時効は中断した。」

(証拠関係)(省略)

(別紙)

目録(一)(森西利亘名義の分)

1.徳島県美馬郡穴吹町古宮字長尾四九六番

一、宅地 三〇坪(九九・一七平方米)

2.同所三六六番の二

一、宅地 一六坪(五二・八九平方米)

3.同所五一七番

一、宅地 五九坪(一九五・〇四平方米)

4.同所五二一番

一、畑  八畝二九歩(八八九・二五平方米)

5.同所五二〇番

一、畑  六畝一歩(五九八・三四平方米)

6.同所五二二番の一

一、畑  一畝一〇歩(一三二・二三平方米)

7.同所五二二番の二

一、畑  一九歩(六二・八〇平方米)

8.同所四八五番

一、畑  八畝七歩(八一六・五二平方米)

外 墓地 一歩(三・三〇平方米)

9.同所五四九番の二

一、畑  四畝一五歩(四四六・二八平方米)

10.同所五〇二番の一

一、畑  三畝一四歩(三四三・八〇平方米)

内雑種地二歩(六・六一平方米)

11.同所五〇二番の二

一、畑  一三歩(四二・九七平方米)

12.同所四九七番

一、畑  一畝二七歩(一八八・四二平方米)

外 墓地二歩(六・六一平方米)

内雑種地二歩(六・六一平方米)

13.同所四九九番

一、畑  三畝二〇歩(三六三・六三平方米)

外墓地二歩(六・六一平方米)

14.同所五八五番

一、山林 九反一畝二一歩(九、〇九四・二〇平方米)

15.同所五九三番

一、山林 二反四畝七歩(二、四〇三・三〇平方米)

16.同所五九六番

一、山林 三反六畝五歩(三、五八六・七七平方米)

17.同所六三三番の二

一、山林 一反一畝八歩(一、一一七・三五平方米)

18.同所六三三番の一

一、山林 一反二畝二四歩(一、二六九・四二平方米)

19.同所五九二番

一、山林 一反九畝七歩(一、九〇七・四三平方米)

20.同所五四九番

一、山林 二反四畝二九歩(二、四七六・〇三平方米)

21.同所五四六番

一、山林 八反一歩(七、九三七・一八平方米)

22.同所六二七番

一、山林 二反一畝二一歩(二、一五二・〇六平方米)

23.同所四六九番

一、畑  四畝八歩(四二三・一四平方米)

内雑種地 八歩(二六・四四平方米)

24.同所五一九番

一、畑  七畝二五歩(七七六・八五平方米)

25.同所五一五番、五一六番

一、畑  七畝一五歩(七四三・八〇平方米)

26.同所五一八番

一、畑  二反二畝二七歩(二、二七一・〇七平方米)

外 墓地 八歩(二六・四四平方米)

27.同所二二七番

一、田  三畝一一歩(三三三・八八平方米)

28.同所四七四番

一、畑  一畝九歩(一二八・九二平方米)

29.同所四七六番

一、畑  一五歩(四九・五八平方米)

30.同所五一二番

一、畑  一畝三歩(一〇九・〇九平方米)

31.同所四九八番

一、宅地 二七坪(八九・二五平方米)

32.同所五〇五番

一、畑  二畝一三歩(二四一・三二平方米)

33.同所三六六番の一

一、畑  三畝一三歩(三四〇・四九平方米)

34.同所二六五番

一、畑  二畝八歩(二二四・七九平方米)

35.同所二六六番

一、畑  一畝一三歩(一四二・一四平方米)

36.同所二六八番

一、畑  一畝八歩(一二五・六一平方米)

37.同所二六九番

一、畑  一畝一五歩(一四八・七六平方米)

38.同所三五六番の二

一、畑  三畝一七歩(三五三・七一平方米)

39.同所五〇一番

一、畑  二畝六歩(二一八・一八平方米)

40.同所五〇九番

一、山林 一畝二四歩(一七八・五一平方米)

41.同所五一〇番

一、山林 一一歩(三六・三六平方米)

42.同所五一三番

一、山林 二畝三歩(二〇八・二六平方米)

43.同所三六六番の三

一、山林 二畝二五歩(二八〇・九九平方米)

目録(二)(森西信雄名義の分)

1.徳島県美馬郡穴吹町古宮字北又五一八番

一、畑  二反八畝二四歩(二、八五六・一九平方米)

2.同所二五五番の二

一、畑  八畝二〇歩(八五九・五〇平方米)

3.同町古宮字〓生六八番の三

一、畑  一畝五歩(一一五・七〇平方米)

4.同所六八番の二

一、畑  三反一畝二二歩(三、一四七・一〇平方米)

5.同所四九一番

一、山林 六反六畝七歩(六、五六八・五九平方米)

6.同所六八番の一

一、山林 五畝七歩(五一九・〇〇平方米)

7.同町古宮字長尾五九七番

一、山林 五反四畝一二歩(五、三九五・〇三平方米)

8.同所六二九番

一、山林 六反二畝四歩(六、一六一・九八平方米)

目録(三)(森西泰海名義の分)

1.徳島県美馬郡穴吹町古宮字生子屋敷六三一番の二

一、山林 六反六畝七歩(六、五六八・五九平方米)

2.同所六二三番の二

一、山林 一町一反六畝二六歩(一一、五九〇・〇七平方米)

3.同所六三〇番

一、畑  二反七畝二七歩(二、七六六・九四平方米)

4.同町古宮字喜来四五一番

一、山林 二反四畝二四歩(二、四五九・五〇平方米)

5.同町古宮字生子屋敷七四七番

一、畑  一反二畝九歩(一、二一九・八三平方米)

6.同所六四三番

一、畑  二畝五歩(二一四・八七平方米)

7.同所六二六番

一、畑  二反三畝一七歩(二、三三七・一九平方米)

外墓地  一歩(三・三〇平方米)

8.同所六二四番

一、畑  七畝二九歩(七九〇・〇八平方米)

外墓地一歩(三・三〇平方米)

9.同所七四八番

一、山林 一反三畝四歩(一、三〇二・四七平方米)

10.同所六四五番

一、山林 二畝二二歩(二七一・〇七平方米)

11.同所六二七番

一、山林 一畝二六歩(一八五・一二平方米)

12.同所六一七番

一、山林 七反四畝九歩(七、三六八・五八平方米)

13.同所七四九番

一、田  二畝一七歩(二五四・五四平方米)

14.同所六四四番

一、田  二畝二四歩(二七七・六八平方米)

目録(四)(森西泰海、森西昭共有名義の分)

徳島県美馬郡穴吹町古宮字長尾五六二番地の五地上

家屋番号六三四番

一、木造瓦葺三階建店舗 一棟

建坪 三七坪(一二二・三一平方米)

二階 二九坪七合五勺(九八・三四平方米)

三階 二九坪七合五勺(九八・三四平方米)

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